野球のコリジョンルールについて、なるべく分かりやすく解説。
- コリジョンルールとは?どんな規定?
- コリジョンルールが制定されたきっかけ
- コリジョンルールの具体的な前例
コリジョンルールとは
最近のプロ野球ではリクエスト制度が導入され「コリジョンルール適用」という野球用語が聞かれるようになりました。
コリジョンルールって何?
コリジョンルールとは「衝突プレイを避けるために定められた野球規則」
「コリジョン」は英語でcollision、日本語では「衝突」を意味する言葉です。
1点を必死で取り合う野球において、本塁では捕手と走者の過激なクロスプレイが発生します。
コリジョンルールが制定されていない時期は、捕手は走者に本塁を踏ませないためにホームベース上に体を置きブロックする、走者はなんとしてでも本塁を踏むために、凄まじい勢いでスライディング・タックルを繰り出すなどの接触プレイが頻発し、負傷者が後を絶たず。
この「クロスプレイによる接触プレイ問題」を解消するために、日本では2016年から、コリジョンルールが規定されました。
コリジョンルール:公認野球規則6.01(i)項
コリジョンルールは、公認野球規則6.01(i)項に「本塁での衝突プレイ」として規定されています。
公認野球規則6.01(i)項「本塁での衝突プレイ」をザックリ要約すると、
- 本塁を狙うランナーは、相手キャッチャーやカバーに来た相手ピッチャー等へ接触するために走路を外れてはいけない
→走路を外れたら、ランナーはアウト
→他の走者は接触発生の時点で占有していた塁まで戻る(ボールデッド) - ボールを持っていない捕手が、ランナーの走路をブロックしてはいけない
→捕手が走路をブロックした場合、ランナーはセーフ
公認野球規則6.01(i)項は、もっと詳細に書かれていますが、ものすごく簡潔にまとめると
- 走者が捕手のブロックを暴力的に崩そうとした場合
→走者アウト - 捕手がボールを持たずブロックした場合
→走者セーフ
「走路をふさいだ、走路を外れた、守備妨害、走塁妨害」等のジャッジは、審判員が判断します。
フェアプレイのためです
コリジョンルールのややこしい点「捕手がボールを持っているか否か」
コリジョンルール(公認野球規則6.01(i)項「本塁での衝突プレイ」)では、
ボールを保持していない捕手が、得点しようとしている走者の走路をブロックする行為を禁じる
引用:コリジョンルール(Wikipedia)
といった「捕手」の動きに関する規定があります。
「ボールを保持していない捕手が」というのがミソ
「ボールを保持していない捕手が、得点しようとしている走者の走路をブロックする行為を禁じる」ということは、
- バックホームを待っている間の捕手は、走路をブロックしたらダメ
- ボールを持ったあとの捕手の立ち位置は、この限りではない
つまり、捕手がコリジョンを取られるかどうかは、ボールを持っていない時点で走路をふさいでいたか否かがチェックされます。
加えて、公認野球規則には以下の規定も記載されています。
捕手が送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合(たとえば、送球の方向、軌道、バウンドに反応して動いたような場合)には、本項に違反したとはみなされない
捕手はボールを持っていなくても、守備のために走路をふさぐ結果にならざるを得なかった場合においては、コリジョンルールの規定違反にはなりません。
バックホームであさっての方向にボールがいきそう!
走路に入ってキャッチしないと全ランナーが返ってきてしまう……
↓
走路に入る動きは守備に必要なので、コリジョンは取られない!
あきらかにアウト。フォースプレイ時のコリジョンルール
捕手のブロックあるなしに関わらず、あきらかに走者がアウトのタイミングだった場合、走者はふつうにアウトになります。
本塁でのフォースプレイ時も、あきらかにアウトなのでコリジョンは適応されずふつうに走者アウトです。
コリジョンルールに抵触しない立ち位置はどこ?
コリジョンに抵触しないよう、キャッチャーはどこでボールを待てばいいの?
捕手が走路をふさがず、ブロックしないとみなされる立ち位置は、ホームベースの右上やホームベースの前です。
その他の位置では走路を塞いでしまう、あるいはタッチが間に合いません。
セカンドコリジョンとは
コリジョンルールというと、本塁でのクロスプレイで適応される印象が強いですが、本塁以外でもセカンドコリジョンなど、危険なスライディングを防ぐルールが存在します。
※公認野球規則6.01(j)項「併殺を試みる塁へのスライディング」で制定
公認野球規則6.01(j)項「併殺を試みる塁へのスライディング」では、ランナーがゲッツーを崩すために、わざと相手野手との接触プレイを仕掛けた場合、守備妨害が宣言され、走者と打者走者にアウトが宣告されます。
スライディングが悪質と審判員が判断した場合、悪質プレーを仕掛けた走者には「警告」や「退場」が言い渡されます。
7回1死一塁、一塁走者として大引の二ゴロで二塁へスライディング。
二塁で送球を受けた遊撃手の糸原の足元に滑り込んだプレーがリプレー検証され、守備妨害を宣告された。打者走者もアウトとなる決まりで併殺となり、バレンティンに警告が与えられた。
【新ルール:ブロッキングベース】野手がベースを塞いだ場合
2023年9月5日の試合からは、ベース上で野手のブロックが見られた場合の新ルールが適応されました。
ベースが、(不可抗力でも)野手でブロックされ、完全にふさがれた場合
→タイミングを見て、セーフ判定とする
「明らかにセーフの場合で、明らかにボールがそれて、野手が結果として不可抗力で(ベースを)塞いでしまった場合はセーフにしましょうということになりました」
出典:デイリースポーツ
牽制による帰塁時も、当ルールが適用されます。
この新ルールは、同年の「DeNA-阪神戦」で問題になったプレイ(通称:バトルブロック)に起因するもの。
阪神・熊谷選手が2塁への盗塁を仕掛けましたが、2塁のベースカバーに入ったDeNA・京田選手の足がベースを塞いでしまう形になり、最終的な判定は「アウト」
この判定に納得いかなかった岡田監督率いる阪神タイガースが、NPBに意見書を提出し、判定基準見直しに至りました。
コリジョンルールが制定されたきっかけ
コリジョンルールが制定されたきっかけは、本塁における捕手のケガの続出です。
メジャーリーグでは2011年に、本塁クロスプレイでキャッチャー(バスター・ポージー捕手)が左足首靱帯を切ってしまいました。
その前後にも、多くの捕手の負傷が問題になり、2014年にMLB(メジャーリーグ)で先にコリジョンルールが制定、NPB(日本のプロ野球)では2016年からスタートしました。
日本プロ野球でタックルが問題視された事例
日本プロ野球では、2013年~2015年頃、阪神タイガースのマット・マートン選手の強引なタックルが問題視されるようになりました。
相手捕手を弾き飛ばし、クロスプレイで鎖骨を骨折するキャッチャーも出てしまい、これを機に当時ヤクルト監督の真中満氏が12球団監督会議で問題を提起。
その後、悪質プレイを抑制するために、日本プロ野球界にもコリジョンルールが制定されました。
コリジョンルールの具体例・前例
コリジョンルールが適用された具体例、前例をいくつか紹介します。
コリジョン初適用:2016年ヤクルト-広島|オープン戦
日本プロ野球における、コリジョンルール初適用は2016年3月15日のヤクルト-広島(オープン戦)です。
- 2回表 ツーアウト1塁2塁
- 広島攻撃中
- 広島:會澤選手の左前打
- 2塁走者の松山竜平選手が本塁へ→アウト
- ※ビデオ判定※
- 守備側のヤクルト中村悠平捕手が走路を塞いでいたと判定
- 松山選手、セーフに
コリジョン初適用:2016年西武-日本ハム|公式戦
公式戦でコリジョンルールがはじめて適用されたのは、2016年5月6日の西武-日本ハム戦です。
意外なことに、NPB公式戦でコリジョンが初適用されたのはキャッチャーではなくピッチャー(髙橋光成投手)でした。
- 6回表、1アウト満塁
- 日ハム攻撃中
- 髙橋光成投手→西川遥輝選手への2球目が暴投
- 3塁走者生還
- 2塁走者(淺間大基選手)が本塁突入
- 暴投された球が炭谷銀仁朗捕手→髙橋光成投手へ
- 髙橋光成投手が浅間選手へタッチ→浅間アウト
- ※ビデオ判定※
- 守備側の髙橋光成投手が走路を塞いでいたため、判定覆る
- 浅間選手、セーフに
コリジョン適用でサヨナラ:2016年広島-西武
</p
【コリジョン適用】一度はアウト判定も『リプレイ検証で覆り1点追加』
コリジョン適用で追加点:2022年オリックス-福岡ソフトバンク
コリジョンルールは賛否両論?反対、廃止を望む声も
コリジョンルールは互いにフェアプレイをするために制定された野球規則ですが、迫力あるクロスプレイが見られない・リクエストにより試合時間が長引くなどの理由で、コリジョンに反対する声、コリジョンを疑問視する声も上がっています。
野球界のご意見番、張本勲氏はコリジョンルールの制定に対し「百害あって一利なし」とコメント。
- 選手や審判が困惑する
- 上手くなる走塁が少なくなる
- 迫力のあるプレイが見られない
などを理由に反対を提唱、クロスプレイによる捕手の負傷を避けるためには「はっきり激突した時は(走者を)退場とか出場停止にすればいい」と提案しています。
コリジョンルールに「喝」が入りました
コリジョンルールに賛成の声
コリジョンルールは、クロスプレイによる接触を避ける以外にも、以下のような理由で賛成の声があがっています。
高校野球、少年野球における危険を回避できる
コリジョンルールは、高校野球や少年野球でも適用されます。
プロの選手でも大ケガをしてしまう本塁での接触プレイは、成長期の学生ではとても耐えられません。
野球少年、野球少女の未来を守るためにも、ラフプレイの元となる接触プレイは避けたいところ。
ルールが選手を守ってくれるという意味で、コリジョンルールが賛同されるケースは多いです。
からだの小さなキャッチャーの活躍の場が増える
ひと昔前までは、キャッチャーは強烈なスライディングを受けても吹っ飛ばされないよう、体格のガッチリした選手が守備につくケースが多かったです。
しかし、コリジョンルールで接触プレイが減れば、小柄な選手にもキャッチャーのチャンスが回ってきます。
「キャッチャー=体格がいい人しかできない」の前提条件が崩れ、「小柄だけどパンチ力のある捕手」「からだは小さいけど配球が緻密な頭脳捕手」「取ってから2塁への送球が爆速な捕手」など、新たな野球スタイルが見られる可能性に期待が持たれています。