プロ野球の「勝利投手の条件や決め方」について、なるべく分かりやすく解説します。
「勝ち投手って何?」
「なんでこの投手に勝ち星がついたの?」
……など、勝利投手について分かりそうで分からない点をまとめました。
歴代の勝利投手記録、レアなケースで勝利投手となった記録も紹介します。
勝利投手とは
勝利投手(しょうりとうしゅ)とは、「チームに勝利をもたらした投手、効果的な投球を行ったピッチャー」とみなされた投手に与えられる記録です。
ざっくり言うと「あなたのおかげでチームが勝てたよ!」「この試合、めちゃ頑張ったね!」という投手が「勝ち投手」
勝利投手は1試合のうち、1人のみに記録されます。
引き分けの試合では、勝利投手は選出されません。
その年のシーズンで、いちばんたくさん「勝利投手」を記録したピッチャーは、投手の主要タイトル「最多勝」に輝きます。
最多勝・最優秀防御率・最多奪三振を同時受賞した投手は「投手三冠」
山本由伸投手が2022年沢村栄治賞を獲得しました。
パ・リーグで最優秀防御率投手賞、勝率第一位投手賞、最多勝投手賞、最多三振奪取投手賞の投手四冠に輝き、このたび受賞となりました。https://t.co/FD5ETWrttz#Bs2022 #プロ野球 #NPB #ORIX pic.twitter.com/1OgmEMi5jO— オリックス・バファローズ (@Orix_Buffaloes) October 24, 2022
敗戦投手とは
敗戦投手(はいせんとうしゅ)とは、「敗戦チームの責任投手」に与えられる記録です。その名の通りなのでイメージしやすいです。
プロ野球ニュースや実況解説では「負け投手」とも呼ばれます。
投球数、投球回数などは関係なく、相手チームに得点を奪われた(リードを許した)投手が敗戦投手となります。
「敗戦投手として記録される=チームが負けた」ということなので、敗戦投手としてカウントされるのは不名誉ではありますが、敗戦投手になるということは、そのぶん試合に出場して必死に腕を振っていた、という証でもあるため、一概に「敗戦投手=ダメな投手」というわけでもありません。
実際に、400勝投手の金田正一投手の通算記録は298敗です。
マウンドに上がる回数が多ければ、負け投手になる確率も上がる
勝利投手の決め方(条件など)
勝利投手の決め方は、公認野球規則9.17「勝投手・敗投手」の項で正式に規定されています。
公認野球規則は、野球のルールブックなだけあって、やや小難しい表現で書かれているため、当記事ではなるべく分かりやすく説明します。
勝利投手を誰にするか?――勝利投手を決める基準は以下の通り。
- 5回まで投げ切った(雨天コールドなど、イレギュラーな場合除く)
- リードを守った状態で、マウンドから降りた
- 引き分けorリードを許した状態から登板した
→登板後、自チームがリードした - 自チームを勝ちに導くような、ナイスな投球をした
公認野球規則9.17(a)
ある投手の任務中、あるいは代打者または代走者と代わって退いた回に、自チームがリードを奪い、しかもそのリードが最後まで保たれた場合、その投手に勝投手の記録が与えられる。
同点になり、試合が振り出しに戻ると、勝利投手や敗戦投手の権利は消滅する
試合が同点になった時点で、勝利投手や敗戦投手の候補はいなくなります。
野球中継などでは「勝利投手の権利が消滅した」「〇〇投手の負けが消えた」などと表現されます。
そして、同点になった時点から、勝利投手や敗戦投手が再選考されます。そのため、
救援投手Aが同点にされ、先発投手の勝ちを消す
↓
次の回、味方の攻撃で自チームがリードする
↓
救援投手Aに勝ちがつく
……といった、なんともいえない展開もよくある話です。
先発ピッチャーが「勝ち投手」になるには
先発ピッチャーの場合は、チームが勝っている状態で最低5回まで投げて、継投後のピッチャーもリードを守り切れば勝利投手となります。
5回未満でマウンドを降りた場合や、継投後のピッチャーが打たれて同点にされた場合、勝利投手の権利は消滅します。
公認野球規則9.17(b)
先発投手は、次の回数を完了しなければ勝投手の記録は与えられない。
(1) 勝チームの守備が6回以上の試合では5回。
(2) 勝チームの守備が5回(6回未満)の試合では4回。
リードを守ったまま5回投げ切れば勝利投手の権利がつく!
雨などでコールドゲームになったときは、4回を投げ切っていれば勝利投手の権利がつきます。
救援ピッチャーが「勝ち投手」になるには
リリーフ投手の場合は少し変則的で、投球後に自チームがリードすれば勝利投手の可能性が得られますが、実際は投球内容も評価されるため、登板後に自チームがリードしたとしても必ず勝利投手になれるわけではありません。
公認野球規則9.17(b)
先発投手が本項を満たさないために救援投手に勝投手の記録が与えられる場合は、救援投手が1人だけであればその投手に、2人以上の救援投手が出場したのであれば、勝利をもたらすのに最も効果的な投球を行なったと記録員が判断した1人の救援投手に、勝投手の記録を与える。
公認野球規則にあるように、救援投手の勝利投手記録は記録員が判断します。
ルールブックで定める、救援投手の「勝利をもたらすのに最も効果的な投球」とは、具体的に以下のような状況です。
- 先発が急に崩れて、その後、ロングリリーフした
- ノーアウト満塁のような大ピンチから登板し、ピシャッとおさえてチームを救った
このほかにも例はたくさんありますが「チームが勝利する流れに持ち込んだとされる投手」が勝利投手として選ばれやすいです。
オールスターゲームの勝利投手
オールスターゲームなどのイレギュラーな試合では、勝利投手の決め方が変わります。
公認野球規則9.17(e)
選手権試合ではないオールスターゲームのような場合には(中略)勝チームが試合の最後までリードを保ったときには、そのリードを奪った当時投球していた投手に与える。
ただし、勝チームが決定的リードを奪った後でも、その投手がノックアウトされ、むしろ救援投手が勝投手としての資格があると考えられるときは、この限りではない。
オールスター戦では、投手は長くても3イニング程度しか投げません。、よって、先発ピッチャーでも、救援ピッチャーでも、勝利投手が得られる可能性が等しくあります。決め方はシンプルで、
- 勝ち越したときの投手
- (↑の投手がノックアウトされた場合)救援投手のうち、資格があると考えられる投手
「勝利投手の条件はおかしい」との声も
ここまでで勝利投手の条件、敗戦投手になる条件を解説しました……が、
味方が貧打だと、100球以上投げても勝利投手になれないかもってこと?
など、「勝利投手の条件はおかしい」と疑問視する声も耳にします。
リリーフ投手が炎上して先発の勝ちが消えてしまった……といった話もよく聞きますよね。
日本のプロ野球では、先発ピッチャーの勝利数が、その投手の評価とされる場合も多いので、この記録のつけかたを悩ましいところでもあります。
クオリティスタート(QS)を投手の指標とする動きもあり
「勝利投手」「敗戦投手」の記録は、投手ひとりの力でどうにかできる数値でもありません。
対戦相手の力量や、味方の打線援護、チーム状況、チームの勝率によっても左右されます。
そこで、昨今では「クオリティスタート(QS)」と呼ばれる指標も使い、投手の評価を決める場合があります。
→先発投手が6回以上投げ、自責点3点以内に抑えたときに記録される
勝利数だけでなく、QSの数字も見れば、より正確な先発投手の力量を図れます。
勝利投手として記録された、レアケース
勝利投手として記録された、レアケースを紹介します。
対戦打者0人で勝利投手
救援投手は、ランナーがいる状態、かつ2アウトの状態から登板することもあるため「ランナーが盗塁死した」「牽制球でアウトにした」などすると、「一人の打者に投げきっていないのに勝利投手になる」などの可能性もあります。
小林雅英投手(ロッテ)
- 2000年7月2日、対オリックス
- 8回・同点・二死一塁で登板
- 打者への2球目が暴投
- 暴投を見た一塁走者(イチロー選手)が三塁を狙うもタッチアウト
- *攻守交代*
- 直後、ロッテが1点勝ち越してそのままロッテが勝利
- →NPB史上初の対戦打者0の勝利投手に
久古健太郎投手(ヤクルト)
- 2014年5月3日、対阪神
- 8回・同点・二死一塁で登板
- 打者へ4球投げる
- 走者が一塁を飛び出す→牽制タッチアウト
- *攻守交代*
- 直後、ヤクルトが4点を勝ち越してそのまま試合に勝利
- →セ・リーグ初の対戦打者0の勝利投手に
1球で勝利投手
ピンチに登板し、1球で火消し完了、その後にチームが逆転し勝ち投手になる「1球勝利投手」の前例もあります。
セ・リーグ投手 | 所属球団 | 記録日 |
板東英二 | 中日 | 1966年8月26日 |
菅原勝矢 | 巨人 | 1967年8月15日 |
安仁屋宗八 | 広島 | 1968年6月30日 |
宮本洋二郎 | 広島 | 1971年5月13日 |
弓長起浩 | 阪神 | 1993年10月21日 |
落合英二 | 中日 | 1999年7月11日 |
森中聖雄 | 横浜 | 2000年5月25日 |
葛西稔 | 阪神 | 2000年8月3日 |
林昌樹 | 広島 | 2003年10月12日 |
土肥義弘 | 横浜 | 2004年7月7日 |
岡島秀樹 | 巨人 | 2004年7月27日 |
五十嵐亮太 | ヤクルト | 2006年5月2日 |
平井正史 | 中日 | 2007年7月31日 |
小林正人 | 中日 | 2009年4月24日 |
真田裕貴 | 横浜 | 2010年8月1日 |
渡辺恒樹 | ヤクルト | 2010年8月10日 |
田島慎二 | 中日 | 2013年8月31日 |
土田瑞起 | 巨人 | 2014年6月15日 |
金田和之 | 阪神 | 2014年7月22日 |
島本浩也 | 阪神 | 2016年7月24日 |
塹江敦哉 | 広島 | 2021年9月9日 |
菊池保則 | 広島 | 2021年9月26日 |
今野龍太 | ヤクルト | 2021年10月1日 |
勝野昌慶 | 中日 | 2023年3月31日 |
パ・リーグ投手 | 所属球団 | 記録日 |
G.ミケンズ | 近鉄 | 1963年8月21日 |
高橋里志 | 近鉄 | 1985年4月25日 |
土屋正勝 | ロッテ | 1986年5月10日 |
吉田修司 | ダイエー | 2000年6月2日 |
山﨑貴弘 | ロッテ | 2001年5月29日 |
後藤光貴 | 西武 | 2001年7月27日 |
愛敬尚史 | 近鉄 | 2001年9月24日 |
小野晋吾 | ロッテ | 2004年4月28日 |
山﨑健 | ロッテ | 2005年6月11日 |
石井貴 | 西武 | 2006年8月1日 |
江尻慎太郎 | 日本ハム | 2007年8月12日 |
C.ニコースキー | ソフトバンク | 2007年9月7日 |
佐竹健太 | 楽天 | 2008年10月7日 |
清水章夫 | オリックス | 2009年8月25日 |
石井裕也 | 日本ハム | 2011年8月8日 |
山村宏樹 | 楽天 | 2011年8月25日 |
谷元圭介 | 日本ハム | 2012年5月20日 |
横山貴明 | 楽天 | 2014年8月30日 |
益田直也 | ロッテ | 2014年9月9日 |
金刃憲人 | 楽天 | 2016年6月11日 |
金刃憲人 | 楽天 | 2016年6月25日 |
松永昂大 | ロッテ | 2018年7月10日 |
酒居知史 | ロッテ | 2019年3月29日 |
【pickup】2023年開幕戦:巨人×中日で勝野投手が1球勝利
この日、中日ドラゴンズの開幕投手 小笠原慎之介投手は145球を投じた末、同点を許し降板。この時点で勝利投手の権利は消滅しました。
直後に登板した勝野投手は1球で3アウト目を取り攻守交替。
次の回で中日がリードを奪い返し、救援投手の勝野投手が1球での勝利投手として記録されました。
現代のプロ野球では考えにくいほどの球数を投げきった小笠原投手の気合のピッチング(145球)が、次の回のドラゴンズの得点劇を生んだともされ、「勝利投手」の記録だけでは推し量れない部分も大きいです。
いっぽうで、勝野投手は1球で勝利こそ手にしていますが、前年、前々年は先発として、投げても投げても勝ちがつかずに中継ぎに転向。(勝っていても、継投後に勝利投手の権利が消滅するなどした)
先発時代は何百球・何千球投じても得られなかった「勝ち」を、救援投手に転向後、即・1球で手にするなど、不思議な状況となっています。
歴代・勝利投手ランキング
歴代の勝利投手ランキングを一部紹介します。
勝利投手:通算記録
通算記録上位10名/敬称略
投手名 | 勝利数 | 敗戦数 | |
① | 金田 正一 | 400勝 | 298敗 |
② | 米田 哲也 | 350勝 | 285敗 |
③ | 小山 正明 | 320勝 | 232敗 |
④ | 鈴木 啓示 | 317勝 | 238敗 |
⑤ | 別所 毅彦 | 310勝 | 178敗 |
⑥ | スタルヒン | 303勝 | 176敗 |
⑦ | 山田 久志 | 284勝 | 166敗 |
⑧ | 稲尾 和久 | 276勝 | 137敗 |
⑨ | 梶本 隆夫 | 254勝 | 255敗 |
⑩ | 東尾 修 | 251勝 | 247敗 |
参照:NPB歴代最高記録
勝利投手:シーズン記録
シーズン記録上位5名/敬称略
投手名 | 勝利数 | 記録した年 | |
① | 田中将大 | 24勝 | 2013年 |
② | 稲尾和久 | 20勝 | 1957年 |
③ | 松田清 | 19勝 | 1951年 |
④ | 須田博 | 18勝 | 1940年 |
⑤ | 斉藤和巳 | 16勝 | 2003年 |