勝利投手、敗戦投手とは

プロ野球の「勝利投手の条件や決め方」について、なるべく分かりやすく解説します。

「勝ち投手って何?」
「なんでこの投手に勝ち星がついたの?」

……など、勝利投手について分かりそうで分からない点をまとめました。

歴代の勝利投手記録、レアなケースで勝利投手となった記録も紹介します。




勝利投手とは

勝利投手(しょうりとうしゅ)とは、「チームに勝利をもたらした投手、効果的な投球を行ったピッチャー」とみなされた投手に与えられる記録です。

野球観戦、嬉しい

ざっくり言うと「あなたのおかげでチームが勝てたよ!」「この試合、めちゃ頑張ったね!」という投手が「勝ち投手」

勝利投手は1試合のうち、1人のみに記録されます。

引き分けの試合では、勝利投手は選出されません。

その年のシーズンで、いちばんたくさん「勝利投手」を記録したピッチャーは、投手の主要タイトル「最多勝」に輝きます。

野球観戦、ありがとう

最多勝・最優秀防御率・最多奪三振を同時受賞した投手は「投手三冠」

敗戦投手とは

敗戦投手(はいせんとうしゅ)とは、「敗戦チームの責任投手」に与えられる記録です。その名の通りなのでイメージしやすいです。

プロ野球ニュースや実況解説では「負け投手」とも呼ばれます。

投球数、投球回数などは関係なく、相手チームに得点を奪われた(リードを許した)投手が敗戦投手となります。

「敗戦投手として記録される=チームが負けた」ということなので、敗戦投手としてカウントされるのは不名誉ではありますが、敗戦投手になるということは、そのぶん試合に出場して必死に腕を振っていた、という証でもあるため、一概に「敗戦投手=ダメな投手」というわけでもありません。

実際に、400勝投手の金田正一投手の通算記録は298敗です。

野球観戦、謎

マウンドに上がる回数が多ければ、負け投手になる確率も上がる




勝利投手の決め方(条件など)

勝利投手の決め方は、公認野球規則9.17「勝投手・敗投手」の項で正式に規定されています。

公認野球規則は、野球のルールブックなだけあって、やや小難しい表現で書かれているため、当記事ではなるべく分かりやすく説明します。

勝利投手を誰にするか?――勝利投手を決める基準は以下の通り。

【先発ピッチャー】
  • 5回まで投げ切った(雨天コールドなど、イレギュラーな場合除く)
  • リードを守った状態で、マウンドから降りた
【救援ピッチャー】
  • 引き分けorリードを許した状態から登板した
    →登板後、自チームがリードした
  • 自チームを勝ちに導くような、ナイスな投球をした

    公認野球規則9.17(a)
    ある投手の任務中、あるいは代打者または代走者と代わって退いた回に、自チームがリードを奪い、しかもそのリードが最後まで保たれた場合、その投手に勝投手の記録が与えられる。

    野球観戦、落ち込む

    同点になり、試合が振り出しに戻ると、勝利投手や敗戦投手の権利は消滅する

    試合が同点になった時点で、勝利投手や敗戦投手の候補はいなくなります。

    野球中継などでは「勝利投手の権利が消滅した」「〇〇投手の負けが消えた」などと表現されます。

    そして、同点になった時点から、勝利投手や敗戦投手が再選考されます。そのため、

    救援投手Aが同点にされ、先発投手の勝ちを消す
     ↓
    次の回、味方の攻撃で自チームがリードする
     ↓
    救援投手Aに勝ちがつく

    ……といった、なんともいえない展開もよくある話です。

    先発ピッチャーが「勝ち投手」になるには

    先発ピッチャーの場合は、チームが勝っている状態で最低5回まで投げて、継投後のピッチャーもリードを守り切れば勝利投手となります。

    5回未満でマウンドを降りた場合や、継投後のピッチャーが打たれて同点にされた場合、勝利投手の権利は消滅します。

    公認野球規則9.17(b)
    先発投手は、次の回数を完了しなければ勝投手の記録は与えられない。
    (1) 勝チームの守備が6回以上の試合では5回。
    (2) 勝チームの守備が5回(6回未満)の試合では4回。

    野球観戦、挨拶

    リードを守ったまま5回投げ切れば勝利投手の権利がつく!

    雨などでコールドゲームになったときは、4回を投げ切っていれば勝利投手の権利がつきます。

    救援ピッチャーが「勝ち投手」になるには

    リリーフ投手の場合は少し変則的で、投球後に自チームがリードすれば勝利投手の可能性が得られますが、実際は投球内容も評価されるため、登板後に自チームがリードしたとしても必ず勝利投手になれるわけではありません。

    公認野球規則9.17(b)
    先発投手が本項を満たさないために救援投手に勝投手の記録が与えられる場合は、救援投手が1人だけであればその投手に、2人以上の救援投手が出場したのであれば、勝利をもたらすのに最も効果的な投球を行なったと記録員が判断した1人の救援投手に、勝投手の記録を与える。

    公認野球規則にあるように、救援投手の勝利投手記録は記録員が判断します。

    ルールブックで定める、救援投手の「勝利をもたらすのに最も効果的な投球」とは、具体的に以下のような状況です。

    • 先発が急に崩れて、その後、ロングリリーフした
    • ノーアウト満塁のような大ピンチから登板し、ピシャッとおさえてチームを救った

    このほかにも例はたくさんありますが「チームが勝利する流れに持ち込んだとされる投手」が勝利投手として選ばれやすいです。

    オールスターゲームの勝利投手

    オールスターゲームなどのイレギュラーな試合では、勝利投手の決め方が変わります。

    公認野球規則9.17(e)
    選手権試合ではないオールスターゲームのような場合には(中略)勝チームが試合の最後までリードを保ったときには、そのリードを奪った当時投球していた投手に与える。

    ただし、勝チームが決定的リードを奪った後でも、その投手がノックアウトされ、むしろ救援投手が勝投手としての資格があると考えられるときは、この限りではない。

    オールスター戦では、投手は長くても3イニング程度しか投げません。、よって、先発ピッチャーでも、救援ピッチャーでも、勝利投手が得られる可能性が等しくあります。決め方はシンプルで、

    • 勝ち越したときの投手
    • (↑の投手がノックアウトされた場合)救援投手のうち、資格があると考えられる投手




    「勝利投手の条件はおかしい」との声も

    ここまでで勝利投手の条件、敗戦投手になる条件を解説しました……が、

    野球観戦、悲しい

    味方が貧打だと、100球以上投げても勝利投手になれないかもってこと?

    など、「勝利投手の条件はおかしい」と疑問視する声も耳にします。

    リリーフ投手が炎上して先発の勝ちが消えてしまった……といった話もよく聞きますよね。

    日本のプロ野球では、先発ピッチャーの勝利数が、その投手の評価とされる場合も多いので、この記録のつけかたを悩ましいところでもあります。

    クオリティスタート(QS)を投手の指標とする動きもあり

    「勝利投手」「敗戦投手」の記録は、投手ひとりの力でどうにかできる数値でもありません。

    対戦相手の力量や、味方の打線援護、チーム状況、チームの勝率によっても左右されます。

    そこで、昨今では「クオリティスタート(QS)」と呼ばれる指標も使い、投手の評価を決める場合があります。

    クオリティスタート(QS)
    →先発投手が6回以上投げ、自責点3点以内に抑えたときに記録される

    勝利数だけでなく、QSの数字も見れば、より正確な先発投手の力量を図れます。

     

    勝利投手として記録された、レアケース

    勝利投手として記録された、レアケースを紹介します。

    対戦打者0人で勝利投手

    救援投手は、ランナーがいる状態、かつ2アウトの状態から登板することもあるため「ランナーが盗塁死した」「牽制球でアウトにした」などすると、「一人の打者に投げきっていないのに勝利投手になる」などの可能性もあります。

    小林雅英投手(ロッテ)

    • 2000年7月2日、対オリックス
    • 8回・同点・二死一塁で登板
    • 打者への2球目が暴投
    • 暴投を見た一塁走者(イチロー選手)が三塁を狙うもタッチアウト
    • *攻守交代*
    • 直後、ロッテが1点勝ち越してそのままロッテが勝利
    • NPB史上初の対戦打者0の勝利投手

    久古健太郎投手(ヤクルト)

    • 2014年5月3日、対阪神
    • 8回・同点・二死一塁で登板
    • 打者へ4球投げる
    • 走者が一塁を飛び出す→牽制タッチアウト
    • *攻守交代*
    • 直後、ヤクルトが4点を勝ち越してそのまま試合に勝利
    • セ・リーグ初の対戦打者0の勝利投手

    1球で勝利投手

    ピンチに登板し、1球で火消し完了、その後にチームが逆転し勝ち投手になる「1球勝利投手」の前例もあります。

    セ・リーグ投手 所属球団 記録日
    板東英二 中日 1966年8月26日
    菅原勝矢 巨人 1967年8月15日
    安仁屋宗八 広島 1968年6月30日
    宮本洋二郎 広島 1971年5月13日
    弓長起浩 阪神 1993年10月21日
    落合英二 中日 1999年7月11日
    森中聖雄 横浜 2000年5月25日
    葛西稔 阪神 2000年8月3日
    林昌樹 広島 2003年10月12日
    土肥義弘 横浜 2004年7月7日
    岡島秀樹 巨人 2004年7月27日
    五十嵐亮太 ヤクルト 2006年5月2日
    平井正史 中日 2007年7月31日
    小林正人 中日 2009年4月24日
    真田裕貴 横浜 2010年8月1日
    渡辺恒樹 ヤクルト 2010年8月10日
    田島慎二 中日 2013年8月31日
    土田瑞起 巨人 2014年6月15日
    金田和之 阪神 2014年7月22日
    島本浩也 阪神 2016年7月24日
    塹江敦哉 広島 2021年9月9日
    菊池保則 広島 2021年9月26日
    今野龍太 ヤクルト 2021年10月1日
    勝野昌慶 中日 2023年3月31日

    パ・リーグ投手 所属球団 記録日
    G.ミケンズ 近鉄 1963年8月21日
    高橋里志 近鉄 1985年4月25日
    土屋正勝 ロッテ 1986年5月10日
    吉田修司 ダイエー 2000年6月2日
    山﨑貴弘 ロッテ 2001年5月29日
    後藤光貴 西武 2001年7月27日
    愛敬尚史 近鉄 2001年9月24日
    小野晋吾 ロッテ 2004年4月28日
    山﨑健 ロッテ 2005年6月11日
    石井貴 西武 2006年8月1日
    江尻慎太郎 日本ハム 2007年8月12日
    C.ニコースキー ソフトバンク 2007年9月7日
    佐竹健太 楽天 2008年10月7日
    清水章夫 オリックス 2009年8月25日
    石井裕也 日本ハム 2011年8月8日
    山村宏樹 楽天 2011年8月25日
    谷元圭介 日本ハム 2012年5月20日
    横山貴明 楽天 2014年8月30日
    益田直也 ロッテ 2014年9月9日
    金刃憲人 楽天 2016年6月11日
    金刃憲人 楽天 2016年6月25日
    松永昂大 ロッテ 2018年7月10日
    酒居知史 ロッテ 2019年3月29日

    【pickup】2023年開幕戦:巨人×中日で勝野投手が1球勝利

    2023年開幕戦:巨人×中日

    この日、中日ドラゴンズの開幕投手 小笠原慎之介投手は145球を投じた末、同点を許し降板。この時点で勝利投手の権利は消滅しました。

    直後に登板した勝野投手は1球で3アウト目を取り攻守交替。

    勝野投手が1球勝利参照:スポーツナビ 1回戦3/31(金)東京ドーム

    次の回で中日がリードを奪い返し、救援投手の勝野投手が1球での勝利投手として記録されました。

    現代のプロ野球では考えにくいほどの球数を投げきった小笠原投手の気合のピッチング(145球)が、次の回のドラゴンズの得点劇を生んだともされ、「勝利投手」の記録だけでは推し量れない部分も大きいです。

    いっぽうで、勝野投手は1球で勝利こそ手にしていますが、前年、前々年は先発として、投げても投げても勝ちがつかずに中継ぎに転向。(勝っていても、継投後に勝利投手の権利が消滅するなどした)

    先発時代は何百球・何千球投じても得られなかった「勝ち」を、救援投手に転向後、即・1球で手にするなど、不思議な状況となっています。

    歴代・勝利投手ランキング

    歴代の勝利投手ランキングを一部紹介します。

    勝利投手:通算記録

    通算記録上位10名/敬称略

    投手名 勝利数 敗戦数
    金田 正一 400勝 298敗
    米田 哲也 350勝 285敗
    小山 正明 320勝 232敗
    鈴木 啓示 317勝 238敗
    別所 毅彦 310勝 178敗
    スタルヒン 303勝 176敗
    山田 久志 284勝 166敗
    稲尾 和久 276勝 137敗
    梶本 隆夫 254勝 255敗
    東尾 修 251勝 247敗

    参照:NPB歴代最高記録

    勝利投手:シーズン記録

    シーズン記録上位5名/敬称略

    投手名 勝利数 記録した年
    田中将大 24勝 2013年
    稲尾和久 20勝 1957年
    松田清 19勝 1951年
    須田博 18勝 1940年
    斉藤和巳 16勝 2003年