野球の申告敬遠を、なるべく簡単に、わかりやすくお話します。
- 申告敬遠とは何か?
- いままでの敬遠との違いは?
- 申告敬遠のやり方
- 申告敬遠のメリット、デメリット
申告敬遠とは
申告敬遠(しんこくけいえん)とは、「投げずに敬遠」する野球ルールです。
守備側チームの監督が故意四球とする意思を球審に示した場合、投手は投球を行う必要がなくなり、打者にはボール4個を得た時と同じように一塁が与えられる
引用:NPBニュース
申告敬遠のルールが導入される前までは、打者を敬遠(わざとフォアボールで歩かせる)ときには、キャッチャーが立ち上がって、ピッチャーとキャッチボールをするような感じで「4球」をわざと大きく外して投げ、四球にする必要がありました。
しかし、申告敬遠を使えば、投手は4球投げずとも、打者を歩かせることができます。
申告敬遠された打者は、申告敬遠を拒否できません。「1塁に歩かなくてはいけない」状況になるため、ホームランを打つ可能性のある強打者でも1塁止まりになります。
申告敬遠のルール制定後も、故意四球が禁止されたわけではありませんが、わざわざ4つのボール球を投げなくていいぶん、試合時間の短縮や投手の体力の温存などが可能になりました。
「申告敬遠」と「故意四球」の違い
申告敬遠 | 故意四球 | |
---|---|---|
どうなる? | 打者が1塁へ進塁 | 打者が1塁へ進塁 |
投球 | 投げない | 四球まで投げる |
投手の球数 | カウントしない | カウントする |
試合の状態 | ボールデッド | ボールインプレイ |
※故意四球については、公認野球規則の5.05b「ボール4つで1塁に安全に進める」内に記載。
バッターに当たらないくらい大きく投球を外す「故意四球」の場合は、ボールインプレイの状態(試合が続いている状態)で4つボール玉を投げる必要があります。
※ボールインプレイ……試合が続いている状態
※ボールデッド……試合が止まり、プレイが無効になっている状態
そのため、故意四球の場合は、投球中に
- 暴投(ワイルドピッチ)の隙に、盗塁される
- 捕逸(パスボール)により、生還され失点する
- 敬遠球を打たれる
など、思わぬビックリプレイが起こる可能性があります。
参照:阪神 新庄剛志 敬遠球サヨナラ打
申告敬遠はいつから始まった?
日本のプロ野球(NPB)では、2018年から申告敬遠制度が導入されました。
もともとはソフトボールの国際ルールで使われていた制度ですが、2017年にメジャーリーグ(MLB)が試合時間の短縮目的で採用。
その後、2018年に日本のプロ野球、社会人野球、大学野球で導入、2020年から高校野球でも申告敬遠が可能になりました。
はじまり | ソフトボールの国際ルール |
---|---|
2017年~ | メジャーリーグ(MLB)で採用 |
2018年~ | 日本プロ野球(NPB) 社会人野球 大学野球で採用 |
2020年~ | 高校野球で採用 (申告故意四球) |
申告敬遠のやり方(誰に伝える?タイミングは?)
申告敬遠のやり方は、その名の通り「申告」が必要です。
- 誰が申告する?→監督
- 誰に申告する?→球審
監督はダッグアウト(いわゆるベンチ)から、球審へ申告敬遠を伝えます。
その後、球審は場内アナウンスかけるよう伝え、場内放送で「ただいま申告敬遠がありましたので、〇〇選手は1塁へ進塁します」など放送されます。
その後、球審がコールし、打者は1塁へ歩きます。
申告敬遠のタイミング
申告敬遠は、ボールカウントがある状態(例:2ボール0ストライクなど)からでも、使えます。
「1試合に〇回まで」といった回数制限もありません。
1塁に走者がいる状態でも申告できます。この場合、1塁に最初からいた走者は2塁へと進塁します。
申告敬遠は、満塁でも申告可能です。
【参考】2022年の敬遠記録
参考までに、2022年のプロ野球・敬遠記録は以下の通り。敬遠数が二桁の打者をピックアップしました。(敬称略)
選手名 | 敬遠の回数 |
---|---|
村上宗隆 | 25回 |
吉田正尚 | 18回 |
山川穂高 | 13回 |
参考:NPB記録
ちなみに、この年のセントラルリーグでギリギリまで村上選手と打率を争った大島洋平選手の敬遠数は5回でした。
大島選手は、1・2番の打順で立つことが多く、ヒットによる「出塁」そのものが期待される役回りでもあるため、敬遠数は少な目。いっぽうで、ランナーを貯めた状態で打席が回る4番バッター(ホームランを打てる強打者)であればあるほど敬遠数は増えます。
満塁時に当たりのいいバッターを申告敬遠すれば、最低限の1失点に抑えらるため、満塁ホームランを打たれ4失点するよりもダメージが少なくなります。やむ負えず申告敬遠する戦略も、勝つためのプレイのひとつです。
2022年に三冠王を獲得した村上選手の敬遠数は1シーズンで「25」……すごい記録
申告敬遠したときの投手の記録
申告敬遠したときは、投手の投球数にはカウントされません。
ただし、投球の途中で申告敬遠したときは、投げたぶんまでの投球数はカウントされます。
申告敬遠はつまらない?賛否両論の理由
申告敬遠の導入目的のひとつは「試合時間の短縮」です。
しっかりした目的があっての野球規則ではありますが、観ているほうからすると「申告敬遠はつまらない」「廃止してほしい」との反対の声も上がっています。
良い場面でスラッガーが申告敬遠されると、場内はブーイングに包まれ、なんともいえない雰囲気に。
確かに、強打者がチャンスで敬遠される姿を見ると、攻撃側のチームとしてはガッカリしますよね……。
残念な申告敬遠の前例
2021年には、メジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が2つの申告敬遠を含む1試合3四球で歩かされ、勝負を避けられました。
前日2本塁打、ここまででメジャートップの30本塁打を放っていただけに残念すぎた
申告敬遠からは、ドラマが生まれにくい
申告敬遠は、強打者と投手の白熱した戦いを奪うため「試合が面白くなくなる」というデメリットもあります。
その他「敬遠球をヒットにする」という、好プレイも生まれなくなります。
かつて、長嶋茂雄選手は敬遠の球を3度ヒットにして観客を沸かせました。新庄剛志選手が、敬遠球を打ってサヨナラタイムリーヒットにしたのも激アツ展開です。
このような、名シーンが生まれる機会がなくなる点も、申告敬遠の弊害といえそうです。
申告敬遠のメリット
「申告敬遠はつまらない」との声も多いですが、申告敬遠にはメリットもあります。
- 試合時間の短縮
- ピッチャーの肘・肩・スタミナ温存
- 新たな記録が誕生する可能性
申告敬遠により、新記録が誕生する可能性もあり
申告敬遠があることにより、逆に新しい記録が生まれる可能性もあります。例えば、
- リリーフ登板した投手Aが1球も投げずに申告敬遠
- その後、降板し、投手Bへ交代
- 投手B打たれる
- 投手Aが申告敬遠で出したランナーが生還し、敗戦が決まった
- →投手Aが「0球で敗戦投手」
申告敬遠により、0球敗戦投手の珍記録が生まれるかも……