野球用語の「クオリティスタート」について、なるべくわかりやすく解説します。
- クオリティスタートとは何か
- クオリティスタートの数値で何が分かるか?
- クオリティスタートの成立条件
- クオリティスタートと似た野球用語「ハイクオリティスタート」と何が違う?
クオリティスタートは「QS」と表記されます
【QS】クオリティスタートとは
「クオリティースタート(QS・QualityStart)」とは、先発投手の能力値を図る指標です。
先発投手が6イニング以上投げ、自責点を3点以内に抑えた試合で記録されます。
「Quality Start」の略であり、投手を評価する項目の1つ。
先発投手が6イニング以上を投げ、かつ3自責点以内に抑えたときに記録される
QSで投手のどんな能力が分かる?
「クオリティースタート(QS)」の数値を見ると、
- 先発投手が試合を作っているかどうか?
- 先発投手がチームの勝利に貢献しているか?
など「先発投手の安定感」が分かります。
「クオリティースタート(QS)」の達成条件は「6イニング以上、かつ自責点3点以内」です。
「自責点3点以内」というのがミソで、失点はカウントされません。
極端に話すと、野手が100回エラーして100失点しても、投手の自責点が3以内で6イニング投げればQS達成です。
自チームのエラーや、味方の打線援護は関係なく、投手自身がコントロールできる「自責点」のみを指標の対象数値としているため、試合の流れや勝敗に左右されず、ピッチャーの能力を推し測ることができます。
投手の自責点と失点の違いは以下の記事で解説中。
※「クオリティースタート(QS)」は、野球を統計学の見地から客観的に分析する「セイバーメトリクス」の指標です。
QSの達成数は、高ければ高いほど良い投手
QS率とは
クオリティスタート率(QS率)は、先発投手がクオリティスタートを達成した「割合」を示すパーセンテージです。
先発投手としてマウンドに上がった回数のうち、何回QSを達成できたか? を数値化します。
クオリティースタートの数値は整数(1,2,3などのスッキリした数字)で表示されますが、クオリティースタート率(QS率)は「%」で計算されます。
QS率の計算式
QS率 = (QS数 ÷ 先発登板数) × 100
24試合登板してQS数が24だと、QS率は100%
※2013年シーズンの田中将大投手の記録・24勝無敗
QS率の平均値は50%程度と言われているため、2013年のマー君の数値は、エグいものがありますね。
QS率を見れば「勝敗」に惑わされずに投手の指標をチェックできる
パッと見で投手の成績を見ると「10勝している!良い投手だなぁ」「10敗している……どうしたんだ」など、勝敗数に惑わされがちになりますが、QS率で比較すると、先発投手がしっかり試合を作ったかどうかが一目で分かります。
例えば……
今井達也投手 (西武) |
涌井秀章投手 (中日) |
|
---|---|---|
先発登板数 | 3登板 | 3登板 |
QS率 | 66.7% | 66.7% |
勝敗 | 2勝0負 | 0勝3敗 |
※2023年4月25日時点
上記は、同時期に同じ登板数で同じQS率を持つ、2名の先発投手。
涌井秀章投手(中日)は、野手のエラーや打線の援護がなく、悲しいことに敗戦投手が続き0勝3敗でQS率は66.7%。
今井達也投手(西武)は、涌井投手と同じ登板数で同じQS率66.7%で2勝0負。
涌井投手も、今井投手も試合を作っています。QS率を見れば、勝敗数だけでは見えてこない「チームへの貢献度」が分かります。
涌井投手……もっと勝てますように
【HQS】ハイクオリティスタートとは
クオリティスタート(QS)と似た野球用語に「ハイクオリティスタート(HQS)」があります。
ハイクオリティスタート(HQS)とは、名前のイメージ通りですが、ふつうのQSの強化版です。
ハイクオリティスタート(HQS)の達成条件は「先発投手が7イニング以上投げ、かつ自責点を2点以内で抑える」です。
QS | HQS | |
---|---|---|
イニング数 | 6イニング以上 | 7イニング以上 |
自責点 | 3点以内 | 2点以内 |
QSでは3点まで許されていた自責点が2点に減り、かつ、最低7イニング投げなければいけないため、難易度が上がります。
達成できたら、すごい記録です。
QS・HQSが重要視される理由
QS・HQSが注目される理由は、先発投手の力量を評価しやすいためです。
近年のプロ野球では「ローテーションを守り、登板間隔の計算ができる先発ピッチャー」が求められています。
昔の野球は一人の先発投手が最後まで投げ切り完投する試合が多くあり、試合の勝敗の責任=投手の責任 としやすかったのですが、昨今のプロ野球は投手の分業化が進み、
- 先発投手
- 中継ぎ投手(セットアッパー)
- ワンポイントリリーフ投手
- 抑え投手(クローザー)
- 敗戦処理投手
- とにかくイニングを稼ぐ投手
など、試合展開に応じて投手の継投をマメに行うようになりつつあります。
さらに、先発投手は先発投手でも、
- 5イニングまで投げ、勝利投手の権利を得たら降板する投手
- 敗戦濃厚でも最後まで投げ切る完投型投手
など、パターンは様々。
「投手分業制」で試合が進むと、先発ピッチャーの勝ち数を比べるだけでは、本来の投手の貢献度が見えにくくなります。
投手につく勝ち星の数は、チームの強さ(打線の援護があったか? 味方にエラーがなかったか?)などでも左右されますし、相手チームがエース級のピッチャーだったかどうかも関係してきます。
QSの数値やQS率を見ることで、投手の安定感が分かるため、昨今の野球界ではQS・HQSが重要視されています。
QSのルーツ
昔のプロ野球には、クオリティースタートと呼ばれる指標はありませんでした。
QSの提唱者は、スポーツライターのジョン・ロウさんです。
1985年にジョン・ロウさんがQSを提唱・発表して以降、まずはメジャーリーグ(MLB)で知れ渡り、2007年以降に日本のプロ野球(NPB)でもセイバーメトリクスのひとつとして使われるようになりました。
フィラデルフィア・インクワイアラー紙で執筆していた1985年に提唱
この指標を通じて、従来の勝利数や敗戦数に依存する投手の個人成績評価方法に代わる、より公正かつ正確な指標を提供することを目的としました。
参照:Quality start still a good measure of quality(翻訳)