プロ野球の「リクエスト制度」――ビデオ判定、リプレイ検証について、なるべく分かりやすく解説します。
- 野球のリクエスト制度とは、そもそも何?
- どんなプレイがリクエスト対象になる?
- 監督がリクエストできる回数は?
- リクエストがくつがえらない理由は?
など、NPBリプレイ検証制度についてまとめました!
- リプレー検証は、監督が審判へ要求
- リクエストは1試合2回まで(延長戦は+1回)
(リクエスト成功時は、回数が減らない) - リクエスト対象プレイ
「アウトorセーフ」「ファウルorフェア」「デッドボール、危険球」など
プロ野球の「リクエスト制度」とは
プロ野球のリクエスト制度とは、審判の判定に納得いかないときに、再検証を求めるための制度です。「リプレー検証」「ビデオ判定」「チャレンジ制度」とも呼ばれます。
野球のプレイは瞬間的な素早い動作が多いため、経験を積んだ審判でもアウトorセーフの判定や、ファウルorホームランの判定を見誤ることがあります。
誤審を防ぎ、公正に試合を進行するために、リプレー検証が導入されました。
リクエスト制度の流れ
プロ野球のリクエスト制度(リプレー検証の要求)は、以下の流れで進みます。
- 一連のプレイが終了する(ボールデッドの状態)
- 「監督」が直前のプレイのビデオ判定を要求
- 審判による再審(球場内でも、当該プレイの映像が流れる)
- 再ジャッジ
- ゲーム再開
リプレー検証権は監督が行使する
リプレー検証の要求ができるのは、各チームの監督のみ。
監督が審判にジェスチャーを送るのが「今のプレイ、リプレー検証して!」のサインです。
監督が審判団に向かい、指で長方形、あるいは丸のような形を描く動作が「リクエスト要求」の合図。
ジェスチャーは監督の性格や試合展開によってさまざまです。たまにキレ気味でモニター映像を示す四角形を描いている監督もいるので、チェックしてみると面白いですよ。
選手にリプレー検証権はない
リクエスト要求は監督のみが行使でき、選手からの要求では成立しません。
実際にプレイした結果「今のはアウトだったはず!! 俺、タッチしたもん!!」と自信がある選手は、選手自ら監督やベンチにアピールし、監督がリクエスト要求してくれるよう身振り手振りで主張をします。
*選手からの「セーフ」のアピール*
「タッチしたか、していないか?」などのクロスプレイ判定は、選手本人の感覚が正しいことも多いです。
審判が自らビデオ判定で再審する場合もある
各チームの監督からリクエストがなくても、審判自らが独自でビデオ判定を行うこともできます。
ホームランか否か、フェンスに当たったかどうかなどの際どいプレイ時は、正確なジャッジをするために審判さんが自主的にビデオ判定に入ります。
リクエスト検証の映像や再ジャッジの方法
各チームの監督がリクエスト権を行使すると、審判3名がグラウンド外に移動し、別室で映像を再チェックします。
判定を下した審判は、グラウンドに残ります。
ビデオ検証時に審判さんが見る映像は、テレビ中継や球場内のビジョンに映し出される映像と同じ画面です。
審判3名で映像を再確認し、3名の多数決で判定を覆すかどうかを決定します。
リプレー検証中、判定を下した当該審判員以外の1名の審判員がグラウンド上に残り、この間、選手はベンチに戻ってはならない。リプレー検証は、当該審判員を除く審判員2名、控え審判員の計3名が行い、支持の多い意見を優先する
その後、審判がグラウンドへ戻り、アウト・セーフなどのジェスチャーをし、両軍ベンチと観客へ判定を伝えます。
判定結果は、審判員の多数決。
よくある感じの一般的なアウト・セーフ判定であれば、審判のジェスチャーのみで試合が再開されます。
ややこしいジャッジが絡んだ場合は、審判員から球場へ、ジャッジの理由――「責任審判の**です。ただいまのプレイについて説明します。3塁走者の○○選手が××でのプレイを妨害しましたため、▲▲とし、プレイを再開します」などアナウンスされます。
リクエスト対象となるプレイ、対象にならないプレイ
リクエスト権を行使できるプレイは限られています。どんなプレイでもリプレイ検証してもらえるわけではありません。
【リクエストOK】リプレイ検証できるプレイ
- アウトorセーフ判定
- フェアorファール判定
- ヒットorホームラン判定
- 危険球(頭部への死球)判定
- デッドボール判定
- コリジョン判定
- 併殺崩し狙いの危険な走塁
- 完全捕球か否か
【リクエストNG】リプレイ検証できないプレイ
- ストライクorボールの投球判定
- ボーク判定
- ハーフスイング判定
- 自打球判定
- インフィールドフライ
- 塁審よりも前方の打球への判定
- 走塁妨害
- 守備妨害
- 直前の判定ではないプレイ
リクエスト権の行使は、1連のプレイに区切りがついて、ボールが動いていない状態(ボールドッドの時)、かつ、直前の判定が対象です。
リクエスト対象プレイは、年を重ねるごとに、じょじょに増えていってます。
1試合でリクエストできる回数は何回まで?
リプレイ検証をリクエストできる回数は、1試合で最高2回。延長戦に入った場合はプラス1回です。
ビデオ判定結果、判定がくつがえれば、リクエストできる回数は減りません。
判定がくつがえらなかった場合(審判が正しかった場合)は、リクエスト権が1回分減ります。
リクエストの判定結果が不服な場合
リクエスト後の判定結果に納得がいかなかった場合も、再度のビデオ検証は行われません。
リプレイ検証の結果は最終ジャッジになります。
判定の内容が不服で、審判に抗議を続けた場合は、監督と抗議した人に退場処分が下されます。
両チームが同時にリプレイ検証を要請できる?
リプレイ検証は、ビデオ判定の対象プレイで、かつ直近のプレイであれば、対戦中の両チームが同時に要請でき、ダブルリクエストが成立します。
【前例】両監督からのリプレイ検証|同時要請
- 2022年8月3日開催 *東京ドーム
- 読売ジャイアンツ-阪神タイガース(原監督-矢野監督)
- 7回表1死1塁
1プレイ中に、両チームの監督がリクエスト権を使った前例があります。
- 阪神からのリクエスト:二塁フォースアウトの判定は正しい?
- 巨人からのリクエスト:1塁ランナーの走塁は守備妨害では?
【前例】審判自らと監督からのリプレイ検証
- 2023年4月12日開催 *ペイペイドーム
- 福岡ソフトバンクホークス-北海道日本ハムファイターズ(藤本監督-新庄監督)
こちらは、審判自らと、監督からの同時ビデオ検証が行われた試合です。
- 審判自ら:ホームランかどうかのリプレー検証
- ソフトバンクからのリクエスト:本塁でタッチできているかどうか?
審判自らと、監督によるリプレイ権行使が組み合わさったダブルリクエストとなり、珍しい状態になりました。
プロ野球におけるリプレイ検証の成功率
リプレイ検証の成功率は、審判さんの能力によるところも大きいので一概に「○%」と提示はできません。
過去の統計では、シーズンを通して50回リクエストした結果、22回もの成功例があり、ほぼ過半数のジャッジがくつがえった、という例があります。
2020年度のランキング
【1位】 三木監督(東北楽天ゴールデンイーグルス)
成功:22回
失敗:28回
成功率:.440引用:スポジョバ
野球は瞬間的な動きが多いため、長年、審判をつとめている方でも、どうしても判定ミスが出てしまいます。
審判員別リクエスト成功率
僕は常々、審判の判定には従う立場だったけど、いざ判定で揉めた場合には選手や元選手の眼の方が審判員さんの眼よりも正しいと思ってた。
しかしこれを見ると、いざ揉めた場合に限っても審判員の方が正しいケースが多いんですね。
牧田さんと佐々木さん優秀なんですね。 pic.twitter.com/4N5bKMrS0N— seVen (@sevenislandsz1) June 11, 2022
プロ野球の審判は、ジャッジミスが多いと翌年は居場所がなくなってしまいます。(審判さんの契約は1年ごと)
審判も選手も観客も、皆が納得するような正確な判定が続けばよいのですが……リプレイ検証の成功率向上に期待したいところです。
プロ野球のリクエスト制度は、いつから始まった?
プロ野球のリクエスト制度で、ビデオ映像によるリプレイ検証ができるようになったのは2018年からです。
もともとメジャーリーグで導入されていた「チャレンジ制度」に追随し、日本プロ野球でも検討・導入された歴史があります。
ビデオ判定の導入歴をざっくりまとめた表が以下。
導入された年 | ビデオ判定対象 | リクエスト権 |
---|---|---|
2010年 | 本塁打 | 審判が自ら必要と認めたときのみ |
2013年 | フェンス際の飛球 | 審判が自ら必要と認めたときのみ |
2016年 | 本塁クロスプレー判定 | 審判が自ら必要と認めたときのみ |
2017年 | フェアorファウル判定 | 審判が自ら必要と認めたときのみ |
2018年 | ・本塁での衝突プレー ・併殺崩しの危険なスライディング ・危険球 |
・各チームの監督 ・審判が自ら必要と認めたとき |
2020年 | 完全捕球 | ・各チームの監督 ・審判が自ら必要と認めたとき |
リクエスト検証のはじまり
日本のプロ野球でのリプレイ検証は、最初はホームランのみの判定でした。
2010年のシーズンから、本塁打に限り正式に導入
引用:導入までの経緯(Wikipedia)
導入当初は、各球場に設置されたカメラ・モニター設備に今よりも大きな格差がありました。
また、監督からの「リクエストするからビデオ見てきて!」といった依頼もできず、審判が必要と認めたときのみ再審が行われる状況でした。
2013年:ホームラン以外のフェンス際の飛球も、ビデオ判定の対象
2013年になると、ホームラン以外のフェンス際の飛球も、ビデオ判定の対象になりました。
きっかけは、中日-阪神戦で、フェンス際の打球判定を巡り、抗議があったためです。
8月23日の中日・阪神戦(ナゴヤD)の3回2死一、二塁。右翼フェンスで跳ね返ったマートンの飛球を平田が捕球したが、名幸一塁塁審はダイレクトキャッチと判定。和田監督は猛抗議の末、自身初の退場となった
2016年:本塁のクロスプレーもビデオ判定の対象
2016年からは、本塁のクロスプレーにもビデオ判定が導入されるよう拡張されました。
本塁で、走者がわざと捕手にぶつかるような走塁をしていないか? 捕手が走路をふさいでブロックしていないか?(コリジョンルール) クロスプレーのセーフorアウト判定などのチェックができるようになりました。
あわせて、2016年からは地方球場を含めた全球場で、ビデオ判定が採用されました。
2017年:フェアorファウル判定も対象
2017年には、ビデオ検証がフェアorファウルの判定に用いられました。
2018年:各チームの監督から再審を要求できる
2018年から、ようやく現状のリクエスト制度「NPBリプレイ検証制度」が導入され、各チームの監督から再審を要求できるようになりました。
2018 3月30日 NPBリプレイ検証制度「リクエスト」を導入した1年目のシーズンが開幕。
引用:NPB公式
セーフ・アウトを巡る判定は球団の生命線でもあるため、長きに渡り、リクエスト制度を導入する要望はありました。
しかし、実際に監督からのリクエストができるようになったのは2018年です。
日本でのリクエスト制度導入が遅れた理由
日本でのリクエスト制度導入が遅れた理由は以下2点。
- 審判団による反対
- 球場によるカメラ・設備設置の格差
リプレイ検証の導入は、審判員の威厳を失墜させる状況にもつながります。
また、ビデオ判定に頼ってしまうと、審判員の技術向上の弊害になるとも考えられ、審判側は難色を示していました。
各球場に設置されたカメラ設備、モニターの個数にも差があったため、現状のリクエスト制度に至るまで長い時間がかかりました。
リクエストがくつがえらない!リプレイ検証後の誤審について
各チームの監督からのリクエストでビデオ検証した結果、判定がくつがえらない場合もあります。
ただ、中には
これ、誤審ちゃう?
と、リクエスト後の、さらなる誤審を疑うケースもあります。
例えば、以下の試合。
2018年6月22日オリックスVSソフトバンク
ビデオ判定の結果、判定がくつがえってホームランになり、ソフトバンクが勝利した試合ですが、実際はホームランではなくファウルでした。
試合後に、審判も誤審であった旨を認めており、なんとも後味の悪い状況になりました。
リクエストがくつがえらない理由
上記の例は、審判も認めた誤審例でしたが、リプレイ映像を見ていても、明らかにセーフ(orアウト)に見えるのに、なぜか判定がくつがえらなかったケースがあります。
これは、リクエスト制度の「スタンド」と呼ばれる考え方によるもの。
リクエスト制度では、判定をくつがえすための「明確な映像」がなければ、現場の審判員のジャッジを優先する運用となっています。
「スタンド」
判定を覆すための明確な映像がなければ現場の審判員のジャッジを優先する運用引用:スポニチ
この取り決めにより、
「アウトだと思うけど、砂埃で見えにくいなぁ」
「セーフに見えるけど、カメラが見切れて分かりにくいなぁ」
といった、フワフワした映像しか残されていなかった場合は、最初の判定がそのまま適用されます。
「絶対にセーフ!」「絶対にアウト!」という確証がない場合、判定は覆りません。
判定をひっくり返すに至らない、「確証がない映像」とは、以下のような場合です。
- スライディングや風で土が舞って、タッチした瞬間やベースに触ったかどうかが見えない
- 肝心の場面が、選手やコーチ、審判の影に隠れてしまい見えない
- 映像がぶれて見えない
「確証がない映像」
〈1〉グラウンドの土などでタッグやベースへの走者の足の入りが確認出来ない。
〈2〉プレイがその他のプレーヤー、または審判員でブラインドになっている。
〈3〉映像自体がぶれている。引用:スポーツ報知
「2台のカメラ映像を組み合わせて分かる判定」もくつがえらない
カメラの2アングルを組み合わせた解析結果で分かる「セーフorアウト」などの判定は採用されていません。
判定をくつがえす確証となる映像は「1枚絵」で収まっている必要があります。
たとえば、タッチアウトか否かの検証が行われる場合で、
- 1カメでは、ベースに触った走者が見える。
ただし、タッチしたかどうかは土埃で見えない。 - 2カメでは、タッチした瞬間が見える。
ただし、選手の影に隠れて捕球したかどうかは見えない。
この場合、同時に映っている映像ではないため、判定はくつがえりません。
参照:オリ中嶋監督も疑問、なぜリクエストで覆らない? 元NPB審判員記者が本当の理由を解説
プロ野球リクエスト制度と審判の心境
誤審を防ぎ、公平・公正な試合とするためのプロ野球リクエスト制度ですが、審判にとっては「悩ましい存在」となっている様子。
元審判さんへのインタビューでは、
- 公開処刑の心境
- リクエスト制度は「なくなってほしい」
と語る声が聞こえてきます。
「審判にとっては『公開処刑』の心境です」
リクエスト制度を要求されるのは審判にとって恥なわけです。我々はジャッジすのが仕事なのに、自らでジャッジする機会を機械に奪われるわけですから。語弊があったらご容赦願いたいのですが、審判にとっては「公開処刑」の心境です。引用:文春オンライン
リクエスト制度は「なくなってほしい」
(山崎夏生 / Natsuo Yamazaki)
なるほど確かに。
自分が判定した結果をリクエストされて、球場には映像がスロー再生される。ミスジャッジのシーンを何度も何度も、いろんな角度から映し出され、その後、自分の過ち(誤審)が確定し、球場全体が沸く――というのは、公開処刑の心境でしょう。
長時間にわたる試合において、ものすごい速さで動くボールや瞬間的なタッチプレイを、目で見て瞬時に判定を下す審判さんの苦労は計り知れませんし、審判員としての矜持を持ち、覚悟を決めてジャッジをしているのに、簡単にぽんぽんリクエストされるのも、たまりません。
審判員は1年契約
誤審が発覚し、判定がくつがえると、審判には「ミスジャッジ」のカウントが増えます。
ミスジャッジの多い審判は、翌年の仕事がなくなる可能性があります。プロ野球審判員は1年ごとの契約だからです。
とはいえ、選手も球団も、人生や社運を背負ってプレイしているため、誤った判定は許されません。
ジャッジの機械化は問題点も多い
「審判は人間だから誤審がある。すべての判定を機械化すればいい」という声もあります。
ただ、すべての判定結果を機械化・ロボット化すると、
- アマチュア野球を含め、野球界全体の技術低下につながる
- 人がジャッジするからこその「味」が失われる
- 設備面で現場に混乱が生じる
などのデメリットも生じます。
生きた人間が目で見て、音を聞いてジャッジするからこそ判断できる状況もあります。
人間が判断するから、機転を利かせて、想定して、瞬時に動くことできる。経験から一番見えるところに立つこともできる。しまったという顔をしているとか本当に痛がっているとか、そういう隠しきれない選手の表情も情報のうち。音だってある。機械は読み取ることができません。機械に頼るならばもっと設備をしっかりしないといけないと思います。
リクエスト制度の隠れた問題点はまだまだたくさんありますが、誤審は防ぎつつ、審判の威厳も保ちつつ、選手・首脳陣・チーム・観客が納得いく試合展開になるよう、まだまだ試行錯誤が続きそうです。