根尾「ショートのレギュラーを奪取します」

聞き間違いかとも思いましたが、どうやら空耳ではなさそうでした。2021年に成人式を迎えた根尾君が、真顔も真顔、真顔度1000%で断言した「ショート奪います宣言」を耳にし、わたくしメは衝撃でひっくり返りそうになりました。

といいますか、当方の皮算用は以下の通りでした。

――根尾昴・プロ入り3年目になる今年2021年。春のキャンプでしっかりと体を作りこみ、立浪臨時コーチの指導のもと打撃スキルを開放、打率爆上げ、6月くらいからペナントレース1軍合流、ポジションはレフトで大活躍しつつ、イニング終了時には京田選手とにこやかに言葉を交わしながらベンチに戻るという世界線……。

こんな妄想を抱いていたものですから、まさかのショート奪います宣言は寝耳に水のセカンドインパクト。否、ショートだからショートインパクト。とにかく「まじすか……根尾君……正気かい?」と妙に動揺してしまいました。

根尾君がショートをやりたい理由は「かっこいいから」らしいです。ほかにも理由がいろいろあるのでしょうが、わたしがテレビで見たときは、そう言ってました。

「かっこいいから、やりたい」という気持ちは分かります。分かりすぎます。わたしだって、人生においてカッコイイからやりたかった事柄は山ほどありました。たとえば、突如タクシーに乗って「前の車を追って!」とか、かっこいいから言ってみたいですし、小切手を差し出して「ここにキミの好きな金額を書きなさい」とかも、かっこよく言い放ってみたい。でも、叶わなかった。だって、なんか無理だったから。社会人フィルターが邪魔して、行動に移すことができませんでしたから。

というか、レフトに限らず、外野手だってカッコイイじゃないですか。レーザービームによる捕殺はもちろんですが、相手ランナーが出てしまうかアウトにできるかの最後の砦が外野手です。外野手の守備力によって、勝敗が決することもザラ。そんな外野守備とショート、どっちがかっこいいなんて疑問自体が愚問です。

でも、根尾君は、入団時に言い切っていました。「かっこいいからショートがやりたい」って。

分かる、気持ちは分かるが、どうしたらいいのか。これは由々しき問題です。根尾君の肩をガクガク揺さぶりながら以下、懇願したい。

「根尾君、聞いてええええ。あの福留だって、最初はショートをやりたかったけど外野へコンバートされて大成功してるじゃんよう、メジャーリーグまで行って大活躍したじゃんよう、ショートにこだわってレギュラーになるのが遅れると2000本安打とかの記録達成も危うくなっちゃうじゃんよう、ってか去年の京田との中継プレーでの捕殺、かっこよかったじゃんよう、根尾君のレーザービーム見たいよおおお、1軍で活躍している姿を1日でも早く見たいよう、だからレギュラー取れる確率が高いポジションで固定されてよおおおお!」

そう、わたしは根尾君の外野挑戦は大賛成派なのです。異論は認める。でも、そんなわたしの願いをよそに、根尾君はさらなる恐ろしい発言をしました。

「守備で京田選手を超えたい」

待って待って待って。今なんて言った?

「京田さんに勝つためには守備で超えないといけない。守備で京田選手を超えたい」

――京田選手を超えたい。確かにそう言いました。うーん、これはなかなか。言うねえ!

京田選手といえば、誰もが知るスーパーショート。鉄壁。京田に何度、相手チームのヒット性の当たりを助けられたことか。リーグでもトップクラスの守備力。京田選手に穴があるとすれば低迷しているバッティングの打率だというのに、そこを狙うのではなく、あえて京田の得意分野の守備での真っ向勝負を予告する根尾君。乗り越えなくてもいいバカ高い壁にわざわざ突っ込んでいく根尾君――。

春季キャンプ中に立浪氏が「根尾には頑固な部分がある」と発言していましたが、なるほど、確かにこれは頑固です。石頭やん!








大人になると、いろんなことを諦めます。少なくとも、わたしはそうでした。イケメンと曲がり角でぶつかって恋に落ちる夢も諦めましたし、そもそもマトモに就職することも諦めました。いろんな夢を諦めた結果が、今の自分です。高すぎる壁からは逃げて逃げてここまで生きてきました。

以下のような考え方を、何かの本で読んだことがあります。

<あきらめる、というのは「明らめる(あきらめる)」ことだ。叶わないことを明らかにすることで、そこを避けて勝てそうな場所に闘いの場をうつしたほうが成功確率が高い。レッドオーシャンで戦い続けるのは阿呆のすることだ>

こうやって、自分の戦えそうな分野を探して、逃げて逃げて、いろんなことを諦めて、自分がやりたいことではなく、自分でもなんとかできそうなことばかりを選んできました。勝てそうにない相手からは逃げる。この生き方がいつの間にか、わたしの根底に染みついていました。だから根尾君も、てっきり外野に聖域を求めるものばかりと思っていました。

でも、根尾君は違いました。
京田という高い高い防壁に向かっていく、とキッパリ。

壁をよけるのではなく、壁を乗り越える、と言った根尾君。

なんかもう、おみそれ致しました。わたしが悪かった。

己の器の小ささを反省するとともに、ドラゴンズの正ショート争いへのワクワク感がふつふつと沸いてきました。

諦めなかった夢は、どこへ行くのでしょうか?





人がプロ野球を見る理由はいくつもあるかと思いますが、単純に「プロ野球選手のプレイや生き様の中に夢を感じる」というのもプロ野球の人気の要因のひとつだと思われます。

逆説的に、プロ野球選手は「夢」を魅せてくれる人。

だとしたならば、ショートという憧れを現実にしようとする根尾君は、もはや根尾君ではなく根尾選手であり、現時点では固定レギュラーでなくとも、わたしはすでに根尾選手の中に「夢」を見ているのです。

プロ野球選手は夢を魅せてくれる。
決して「あきらめ」を見せるのではなく。

前述しましたが、京田選手はすごい。超すごい。守備ガッチガチだし、ファールカップ大だし、観戦していてショートに球が飛んだらとりあえず安心する。アウト3つ目なら、京田選手の捕球を見ずに冷蔵庫にお茶とか取りにいくときもあるくらい、守備に信頼感があります。

京田選手は一見優しそうな見た目だから勘違いしそうになるけど、守備のガチガチさとストイックさはトップクラス。「ぜったいにショートは渡さぬ」と強い意志を持っているはずです。なんてったて、京田選手の憧れているのはロッテ鳥谷氏。ベテランになった現在も、朝5時起きで練習しまくってるレジェンド選手の背中を追ってここまで来た選手です。いろんなものを背負ってます。

だから、京田選手にはこれからも期待しかない。でも、根尾選手の挑戦も見届けたい。これで根尾がショートを取ったら、涙腺ドッバドバ……。

京田か、根尾か。どっちがショートのレギュラーを取るのか。うかうかしていると、堂上だって土田だってショートを虎視眈々と狙ってきています。

「私の為に争わないで」byショート

もう、全員でショートを守ってほしいくらいです。ショートやりたい人、みんなでショート守ろうよ……。ショートに内野手4人、ギュウギュウ詰めにして配置してほしいくらいです。みんなにショートを守ってほしい。

といいますか、よくよく考えてみると、そもそも「根尾君、外野! 外野!」って言ってましたが、外野のポジションだって完全に空いているわけじゃなかったですよね。町内の草野球じゃあるまいし。

ドラゴンズの外野陣には、平田をはじめ、武田、福田、福留、井領……いっぱい有力選手がいます。(大島はセンター確定なので例外)

いままで外野一筋でプレイしてきた外野手陣を押しのけて「外野なら、すぐ取れる」なんてのも、思えば失礼な話です。

どうせ失礼なら、望んだポジションで真っ向勝負を挑む根尾選手。そんな姿に観戦者は夢を見る。「がんばれ! 根尾君!」と応援したくなります。(だが、根尾君は応援せずとも頑張る(笑))

欲しいものを「欲しい!」とキッパリ言いきり、ありったけの努力を惜しまない根尾選手から目が離せません。

――そういえば、根尾選手と同期のロッテ藤原恭大選手がこんなことを言っていました。

「(根尾は)元来器用なタイプではないので上のレベルに行くと必ず壁にぶち当たる」
「が、凄まじい努力で乗り越えてしまう」
「自分の方がずっと先を走っていたはずなのに、いつの間にかすぐ横を走っている」

2021年のオープン戦が間もなく始まります。

そして3月26日開幕。マツダスタジアム開幕戦。その時、ショートにいるのは果たしてどの選手か。

わくわくが止まりません(*´▽`*)

藍浦みかん

■この記事を書いた人:藍浦みかん
プロスピAのセリーグ順位予想は、ドラゴンズを1位にしました。頼みます、ほんと!!(^^)!
2021.2.27