野球の「隠し球」について。
隠し球とは何か、意味や成功条件を解説。
隠し球の名手といわれる野球選手や、隠し球の成功例・失敗例も具体的に紹介。
隠し球とは
野球の「隠し球(かくしだま)」とは、野手がボールを隠し持ち、走者がベースから離れた瞬間を狙ってタッチアウトを取るプレイです。
隠し球の具体例・使い方
・ボールを持っている野手が、投手に直接ボールを渡すふりをする
→実際は野手がボールを持っているため、隙を見てタッチアウトへ持ち込む
・走者が野手を見ていないとき(ヘッドスライディング直後など)に、野手がボールを返球したふりをする
→実際は野手がボールを持っているため、走者がベースから手足を外した隙にタッチアウトを取る
グラブ内にボールを隠しておき、隙をみてタッチアウトを取るのが「隠し球」
隠し球は、相手走者、相手ベンチ、相手のランナーコーチに対し「ボールを持っていない演技」「ボールを受け渡したふり」をする必要があるため、成功率も低く、高度なトリックプレイと言われます。
隠し球を仕掛ける側は「挙動不審にならない」「隙を見て、素早くタッチする」など、度胸・頭脳・冷静な状況判断が必要です。
隠し球のルール、使い方
「隠し球」は、公認の野球ルールブック(公認野球規則)で定義されている言葉ではないため「隠し球の正規ルール」をうたった規則はありません。
インプレイ時に適用となる可能性があり、ボールデッドが宣告されたあとは成立しない――などの決まりはありますが、正規に「隠し球」というワードがルールで定められてはいません。
隠し球の成立条件
隠し球は、ボールインプレイ中(ひとつのプレイが続いている状態)に行われる必要があり、いったんプレイが止まったあと(ボールデッド)は、成立しません。
例えば「タイム」がかかったあとや、投手が投球動作に入ったあとは、隠し球によるタッチアウトは不可能。
もし、投手がボールを持っていない状態で投球動作に入ると、ボークが取られます。
1999年4月3日の読売ジャイアンツ対阪神タイガース戦で、巨人の三塁手・元木大介が隠し球を試みたが、桑田真澄投手がボークをとられたという事例がある。桑田は、左足が投手板をまたいでいるように見えたと審判員から通告された
ピッチャーがボールを持たず、投手板をまたいでもボーク
隠し球の名手、使い手で有名なのは誰?
隠し球の名手として知られる有名選手を一部紹介。※敬称略
隠し球の名手 | 隠し球成功時の球団 | 備考 |
大下剛史 | 東映 | 1年で4度の隠し玉を成功させた |
ティム・アイルランド | 広島 | 1年で3度の隠し玉を成功させた |
元木大介 | 巨人 | 通算2度、隠し玉成功(くせ者) |
佐伯貴弘 | 横浜 | 通算3度、隠し玉成功 |
山﨑浩司 | 広島 オリックス |
通算2度、隠し玉成功 セ・パ両リーグで隠し球を成功 |
隠し球は高度な演技力や状況判断力が必要。日本プロ野球でも、隠し球を得意とする選手は少ないです。
隠し球のスゴ技!前例を一部紹介
隠し球が華麗に決まった、成功例を一部ご紹介します。
【MLB】1塁牽制後、走者が油断した隙にタッチ→アウト
参照:隠し球のお手本集 メジャーリーグ
- 牽制球で1塁ランナーが帰塁
- 帰塁はセーフ判定
- セーフ判定後、ベースから足を離す
- 足を離した隙に、1塁手がランナーにタッチ→アウト
メジャーリーグの隠し球、成功例です。
走者が油断してベースを離れた隙に、すかさずタッチアウト。
ボールから目を切ってはいけないですね……(;'∀')
【NPB】清原選手、巨人時代に隠し球アウト
参照:清原が隠し玉にひっかかる(笑)
巨人時代の清原選手も、隠し玉でアウトになっています。
2001年4月13日、巨人-横浜にて、1塁にいた清原選手は油断した隙に隠し球を持った、横浜・佐伯選手にタッチされ、アウトとなりました。
まさかの隠し球でアウトになった清原選手、長嶋監督も首をかしげる姿がなんともはや。
清原選手が隠し球アウトになったのは、これが野球人生初だったようで「野球をやってて初めての経験や。ビックリしたわ」とコメント。
いっぽう、隠し球を決めた、横浜・佐伯選手は後日「卑怯な手でやりたくなかったが、どうしても勝ちたかった」と語っていました。
この隠し球の3日後、佐伯選手の車のタイヤが4つぜんぶ盗まれたそうです……
【カープレジェンドゲーム2002】新井監督が隠し球でアウト
参照:新井さんヒット打ったのに隠し玉でアウト(カープレジェンドゲーム2022)
公式戦ではありませんが、広島カープのレジェンドが集まる「カープレジェンドゲーム2002」にて、翌年の監督に就任した新井貴浩さんが、高橋慶彦さんの隠し球に気づかず、無事(?)アウトとなり、球場のムードも和やかになりました。
2塁塁審の谷さんも、隠し球アウトまでしっかりとボールを見てジャッジ。さすがです。
解説のミスター赤ヘル、山本浩二さんも「ナイスナイスー」と言ってておもしろい
【隠し球の失敗例】巨人・元木選手/槇原投手
「隠し球の名手」と言われる、巨人の元木大介選手ですが、現役時代には隠し球に失敗したこともありました。
このときの隠し球失敗について、元木さんは後日「槇原の演技が下手だから失敗した」と語っていました。
くせ者・元木でも、失敗例はあるようです
【NPB】井口資仁選手の隠し玉で、イチロー選手がアウト
1999年7月3日のオリックス-西武にて、イチロー選手も隠し球でアウトになっています。
隠し球を成功させたのは、当時ショートを守った井口資仁選手。
状況
- イチローは2塁走者
- バッターは、レフトフライ→アウト
- 井口選手がレフトからの返球を隠し持つ
- イチロー選手、リードを取る
- 井口選手、背後からイチロー選手にタッチ→アウト
のちに、イチロー選手は、この試合が人生初の隠し球だったとコメント。
隠し球を決めた井口選手は「相手コーチがどっちも(1塁・3塁)見ていなかった。山田さん(ロッテ:山田勉投手)もいい感じで間を取ってくれました」と話しています。
イチローさんも引っかかった、井口選手の隠し球!
隠し球を最近見ない理由
トリッキーな頭脳プレイとして知られる「隠し球」ですが、昨今の日本の野球(公式戦)では、なかなか見られなくなってきました。
日本プロ野球では、2009年山﨑浩司選手の隠し球が最後。2009年以降は公式戦で隠し球の成功例はありません。
隠し球は、
- なんか、卑怯で姑息な感じがする
- バレたときに、なんともいえない雰囲気になる
- 投手、野手ともに演技力が必須
- 1塁コーチ、3塁コーチにバレてはいけない
など、ネガティブな心理的要因が伴うため、仕掛ける選手も極めて稀。
日本は「武士道に反する」という理由で、隠し球が禁止されていた時期もあったほどで、高校野球でも「少年少女にそぐわない」「正々堂々と勝負すべき」という理由からか、隠し球を取り入れるチームはほぼありません。
隠し球の名手、山﨑浩司選手は「すみません……」と言いながらタッチアウトにしたこともあったそう
加えて、出塁時に走者はレガースや肘あてなどの「防具」を外すために「タイム」を要求するためボールデッドになり、隠し球の成功条件である「インプレイ」が終わります。
このような「心理的背景」「物理的背景」により、昨今では隠し球が見られなくなってきました。