プロ野球における「暗黙のルール」まとめ。
盗塁におけるタブー、引退選手への不文律など、具体例を交えて紹介しました。
暗黙のルールを破るとどうなるか? についても解説!
プロ野球に暗黙のルールが存在する理由
プロ野球に暗黙のルールが存在する理由は、
- 対戦相手に敬意を表するため
- 大量得点による記録の乱造を避けるため
- 両軍入り乱れての乱闘へ発展するのを防ぐため
根っこの考えは、相手チームを互いに尊重しつつ、スポーツとして紳士的にゲームを進行させるために、暗黙のルールが存在します。
例えば、これまで野球界を引っ張ってきた「引退選手」に華を持たせるべく決められた暗黙のルールは以下。
- 投手が引退する場合→打者は空振り三振するのがお約束
- 打者が引退する場合→投手はストーレトを投げる
引退選手が気持ちよくグラウンドを後にできるよう、粋な計らいが取り持たれます。
その他、既に勝敗が決した大量得点の試合では、試合を長引かせるような行為をしない、などが野球界の不文律となっています。
暗黙のルールを破るとどうなる?
プロ野球の暗黙のルールは不文律であり、公認野球規則(野球のルールブック)に載っているわけではないため、ルールを破ったからといって審判から退場や警告等のペナルティは与えられません。
とはいえ、野球界の暗黙のルールは「相手への敬意を表す」ことが根底にあるため、ルールを破ると相手チームの逆鱗に触れ、故意死球(報復によるデッドボール)、乱闘などに繋がります。
両軍入り乱れての乱闘になった場合、乱闘制止に向け、選手全員がベンチやブルペンを飛び出し乱闘に参戦するのも、プロ野球の不文律です。
プロ野球における「暗黙のルール」
プロ野球における「暗黙のルール」をズラリと紹介。
「大量点」は、おおよそ6点以上の点差が開いた場合をさします。
「攻撃時」の暗黙のルール
- 対戦相手が「引退する選手」である場合の攻撃時
- 6点以上、リードしているときの攻撃時
- ホームランを打ったとき
- 相手投手に完全試合、ノーヒットノーランの可能性が出てきたとき
- その他、攻撃時
引退試合
- 相手の投手(引退する投手)がバッター1人を相手に投球する場合、打者は空振り三振するのが望ましい
- 相手の野手(引退する打者)がバッターボックスに入ったとき、投手はストレートで勝負する
点差が開いている(リードしているとき)
- 大量に点差が開いているリード中、バントや盗塁はご法度
- 大量に点差が開いているリード中の6回以降の攻撃では、3ボール、ノーストライクからのカウントで打ってはいけない
ホームラン・ヒット関連
- ホームランを打ったとき、わざとゆっくりダイヤモンドを回ってはいけない
- ホームランを打ったとき、過度なガッツポーズや相手チームへの挑発行為を行ってはいけない
- 派手なガッツポーズ、派手すぎるバット投げをしてはならない
- 打球の行方を、立ち止まって追ってはいけない
- 二者連続本塁打後の初球を打ちに行ってはならない
相手投手に完全試合・ノーヒットノーランの可能性が高いとき
- 相手投手に完全試合・ノーヒットノーランの可能性が高いとき、記録を阻止するためのバント、バントヒットを狙ってはいけない
その他、プレイに関する行為
- キャッチャーのサインを盗み見て、走者に球種やコースを教えてはいけない
- ボテボテのゴロでも、1塁に全力疾走しなくてはいけない
「守備時」の暗黙のルール
- 投手がピッチングするとき
- 点差が開いているときの守備
投手
- バッターから三振を取った時、投手が派手なガッツポーズをするのは控える
- イニング途中で投手交代した場合、下がった投手はその回が終わるまでベンチで戦況を見守り応援する
- 打者としてバッターボックスに入った相手ピッチャーへ向け、厳しいインコース攻めをしない
点差が開いている(リードしているとき)
- 大量点差が開きリードしているときの最終回、投手を2回以上交代させてはいけない
プロ野球で「暗黙のルール」に抵触した具体例
一部ではありますが、日本のプロ野球で「暗黙のルール」に抵触し、問題になった前例を紹介します。
11点差から盗塁→死球(2者連続)→乱闘→2名退場」
2007年4月19日 東京ヤクルトスワローズ-横浜ベイスターズ戦
7回表、横浜11点リード中に、一塁走者の石川雄洋選手が盗塁(二盗成功)
この盗塁に対し、当時ヤクルト兼任監督の古田敦也捕手が激怒。横浜ベンチへ罵声。
直後の打席で、古田捕手とバッテリーを組んでいたヤクルトの遠藤政隆投手は、直後の打席で2者に対し連続デッドボール。
・内川聖一選手の背中に死球
・村田修一選手に初球から頭部への抜け球を投球(危険球退場)
頭部に危険球を投げられた横浜サイドがベンチから飛び出す。
ヤクルト選手もベンチから駆け付け、両軍入り乱れの乱闘へ発展
球審への暴言があったとし、古田捕手は退場を宣告される
ちなみに、この試合は古田さんの通算2000試合出場達成の記念すべき試合でした……
5点差から盗塁「これは大変なことやと思うよ」
出典:ニッカンスポーツ
2010年6月4日 阪神タイガース-オリックス・バファローズ戦
阪神が5点リードの7回攻撃時に、走者の藤川俊介選手が盗塁。
この盗塁に対し、当時オリックス監督の岡田彰布氏が以下コメント。
「完敗やんか、あんだけ打たれたら。こっちは打てへんし」
「ファースト、5点差で走ってもうたな。アレ、大変なことなるよ」
「やってしまいましたな。こっちは負けを認めてるのに」
「大変なことをやってしまいました。明日も試合あるのに」
「教育やろな、教育」
教育やろな=翌日の試合での「報復」を予感させる発言
この盗塁については、点差が開き、守備側が無関心だった点が考慮され、走者に盗塁は記録されませんでした。
8点差から盗塁→内角攻め→警告試合
大量点差から盗塁を試みたことで、両チームが一触即発になり、警告試合が宣言されたケースもあります。
2017年6月6日、横浜DeNA対楽天戦でDeNAの梶谷隆幸が8点差のついた6回表に盗塁。
8回に迎えた次の打席で楽天の久保裕也投手から厳しい内角攻めを受け、球審西本欣司は警告試合を宣言した
画像左が、当該試合において、警告試合を宣言した西本球審です。
殺伐とする雰囲気の試合下で、乱闘に発展するのを未然に防いだ功績、判定が称えられ西本球審には「ファインジャッジ賞」が送られました。
プロ野球の「警告試合」は以下の記事で解説中。
スリーランで大喜び→報復死球?→乱闘へ……「神戸はしゃぐ」
2010年4月9日 千葉ロッテ-埼玉西武
初回にスリーランを放ったロッテの神戸拓光選手は、嬉しさを爆発させてガッツポーツ連発、ベンチでは喜びあふれるポージングを決めました。
ところが、この「喜びすぎ」が対戦相手(対戦投手)の静かな逆鱗に触れ、神戸選手は次の打席で死球を受けます。
デッドボールを与えたのは、普段からコントロール抜群の涌井投手。
涌井投手は帽子を取って謝罪のしぐさは見せたものの、報復死球と受け取ったロッテベンチは怒りと抗議のためベンチを飛び出し、最終的にはブルペン投手も交えて、両軍が集まる危険な雰囲気になりました。
参照:埼玉西武ライオンズ
この試合の終盤では、通算1500安打記録を目前にしたロッテ・井口資仁選手にも死球が与えられ、2度目の乱闘寸前となりました。
プロ野球の不文律を疑問視する声も
プロ野球における暗黙の了解は「相手チームへの敬意」や「乱闘騒ぎを起こさないため」にあり、暗黙の了解を破ることはタブー視されがちです。しかし、
- 大量点差でも、手抜き試合を見たくはない
- 引退選手とも、真剣勝負してほしい
- 選手の「記録」のためにも、全打席、真剣勝負してほしい
といった声も上がっており、プロ野球の暗黙の了解をくだらないと評するコメントもあります。
引退試合で「真剣勝負」を望んだ、斎藤佑樹投手
過去の例では、斎藤佑樹投手(ハンカチ王子)の引退試合時に、斎藤投手本人の希望で「真剣勝負」が申し入れられたというエピソードがあります。
勝負結果は、斎藤投手の四球で終わりましたが、実はこの時の試合(2021年10月17日、日本ハム-オリックス戦)は、オリックス側が優勝争い真っ最中で、オリ側からすると、ひとつも落とせないゲームでした。
ペナントレース優勝がかかる大事な試合で、相手打者に「三振してくれ」と期待するのも酷な話です。
2021年、オリックス・バファローズは見事、パ・リーグ1位に輝きましたが、その行程には斎藤投手が「真剣勝負」で臨んだ1ページがありました。
引退試合クラッシャー:村田修一選手
強打者「村田修一選手」は、不思議とレジェントクラスの野球選手の引退試合に立ち会う機会が多くありました。
そして、本人の意向は不明ですが、引退試合やメモリアルがかかった試合を、ことごとくクラッシュして話題になりました。
過去には、阪神タイガース、矢野捕手の引退試合でホームランを放ち出番を失わせる、広島カープ、佐々岡投手の引退試合でフルスイングをかまし、スタンドへボールをぶち込むなどなど。
ですが、このときホームランを打たれた佐々岡投手は「真剣勝負で嬉しかった」とコメントしています。
引退選手の有終の美も見たいけど、真剣勝負も見たい!
プロ野球の不文律・暗黙のルールは、長い年月をかけて築かれた非公式ルールです。
暗黙とはいえ、ルール化される理由があり、プロ野球をプロ野球たらしめる要素でもありますが、こうした「暗黙のルール」だけに囚われないプレイも、見ていて楽しいものです。